大判例

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最高裁判所大法廷 昭和25年(ク)103号 決定

労働組合法第一四條は、「労働組合と使用者又はその団体との間の労働條件その他に関する労働協約は書面に作成し両当事者が署名することによつてその効力を生ずる」と規定している。そしてここに署名とは、自ら自己の氏名を書くことをいうものと認むべきであるから、記名押印を以てこれに代えることはできない。論旨は同條署名の意義を、自署に限ると解することは憲法二八條の団体交渉権を不当に制限するものであると主張する。しかし、労働協約が両当事者の署名のある書面を作成することによつて効力を生ずるとしたことは、労働協約の確実性を保持せんがためであつて、団体交渉権そのものを制限することにはならない。從つて、右説明と同一趣旨を説示した原決定は正当であり、その余の論旨はいずれも独自の見解にすぎないから、採用できない。

よつて民訴九五條及び八九條により、

裁判官全員の一致で主文のとおり決定する。

(裁判官 長谷川太一郎 沢田竹治郎 霜山精一 井上登 栗山茂 真野毅 小谷勝重 島保 斎藤悠輔 藤田八郎 岩松三郎 河村又介)

抗告代理人弁護士士田光保特別抗告理由

原決定は本件基本協約書及び覚書(何れも労働協約であるが)が当事者の記名捺印はあるが、その自署がないから労働協約の効力を生じないとの理由により、本件抗告を棄却したのであるが、右は憲法第二十八條の解釈を誤りたるか、又は之に違背するものである。

即ち憲法第二十八條は労働者の団結権、団体交渉権等を保障しているが之は社会的生存の基本的人権であつて、憲法第二十一條の結社権の如き自由権と異り、單に国家から侵害されないと謂うばかりでなく、それ以上の積極的な保護を意味するものと解すべきである。(若し斯く解さねば特に憲法第二十一條以外に特に第二十八條を設けた趣旨が意味をなさないであろう)これに基き我が労働組合法第一條に於ても労働協約の締結を助成すべきこととなつている。

かような次第で労働者団体と資本家との間に於ける、労働條件等に関する協約は、労資当事者が対等の立場に立つて公序良俗等に反せざる限り、如何なる内容の協約を締結しても原則として自由でなければならないし、又その協約締結の方式に於ても書面に当事者双方が自署すると、記名捺印すると何等その効力を否定する理由はない。この点はアメリカと異り、我が国は憲法によつて団体交渉権を保障しているから、法律を以てしても之に違背することはできないし、又之に違背する解釈も許されない。それ故に

(1) 労働組合法第十四條の趣旨は署名とありて必ず自署でなければならないものでもなく、記名捺印であつても支障ないものと解すべく、若し然らずとせばそれは憲法第二十八條の団体交渉権を不当に制限する誤つた解釈となる。

(2) 仮に労働組合法第十四條の署名が自署であつて記名捺印を含まずとするも、それは新労働組合法により特に創設され同法第十七條第十八條(一般的拘束力)等による保護や救済がなされないことを意味するのみであつて、労働協約当然の規範的な効力や、債務的拘束力まで否定することはできない。(若しそのような趣旨とすれば、それは憲法第二十八條に違背するもので、労働組合法制定以前たる労働運動断圧時代よりも尚労働者団体は保護されないこととなる。)

詳細は別冊労働協約の要式性と署名御参照。

以上何れの点よりするも原決定は憲法の解釈を誤つたものか、又は之に違背するものである。

仍て民事訴訟法第四百十九條の二に則り茲に本件特別抗告に及ぶ次第であります。 以上

(別冊略)

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